【実録】産褥期2週間未満の新生児ワンオペ育児60時間

これは、退院してから間もない産婦の生の記録である。

 

前提として、わたしは、出産時間40時間、帝王切開で子供を出産した。

(帝王切開って、ようするに切腹です。切腹してから次の日から歩くのだ!)

 

 

 

それでも、産後の肥立ちはいいほうだ。

そして、赤ちゃんも基本的には、よく飲みよく眠る育てやすい子だ。

母乳の出も、十分とはまだまだ言えないが、決して悪くはない。

持病として、双極性障害自閉スペクトラム症はあるものの、赤ちゃんは最初からかわいく、気持ちも明るかった。

今、子供を産んで二週間以内。

 一般的には、里帰りなどをし、授乳とおむつ替え以外はしないで、横になっていないといけない時期である。

新生児とは生後一か月未満の赤ちゃんのことを言う。 

 

 

しかし、どうしようもない事情により、密室で赤ちゃんと二人きりになった。

今は、38時間を経過したところである。

 

 赤ちゃんが泣き止まなくてつらかった。

家に二人きりになってからすぐに、赤ちゃんがぐずり始めた。

初日のぐずっていた時間の合計は、11時間である。

新生児の世話というのは、基本的に三択である。

授乳、おむつ替え、だっこである。

(実際には個人差があり、口寂しくてぐずる子、いっぺんにたくさん飲めない子、いろいろあるから、一概には言えないが)

わたしは、この三つを十一時間中ずっと試し続けた。

そして、抱っこをすればのけぞり、おっぱいをやろうとしたら、顔を真っ赤にしていやがり、おむつはきれい、その状態にもなった。

十一時間、どうしたらいいのかわからないまま、授乳と抱っことおむつの答えの見えない単純作業をしていると、だんだん疲弊する。

 

 

 かわいいわが子である。わが子でなくても赤ちゃんはかわいいと思うほうだ。

普段、赤ちゃんの声を聴けば、泣き声であっても、なごむほうだ。

それでも、だんだん、自分の精神もぐずぐずになった。

 

 

もちろん、赤ちゃんが泣いていても無視をしていい、という発想もある。

おむつ、授乳さえこなしていれば、死にはしない。

しかし、こう、赤ちゃんの泣き声というのは、心をかきむしるところがある。

最初は、気軽に応対していたものの、追い詰められていくうちに、泣いたら何かしないといけないと思い込むようになる。

 

 

 

だんだん妄想が激しくなって「泣いているのを無視したらサイレントベビーになる」「ミルクばっかりやっていたら母乳が出なくなるかも」(わたしは混合です)と思い始める。

別に、一日だろうと三日だろうと、どうしたって、大して変わらないことは、今はわかる。

 

 

でも、細切れ睡眠で、思考能力が低下していた。

そして、思考能力が低下していることに気づかなくなっていた。

睡眠不足もつらかったが、一番つらいのは、腰を伸ばせないことである。

ずっと、赤ちゃんの世話をしているということは、腰を曲げているということである。

足もむくんでくるので、「ああ、ストレッチをしたい」としか思えなくなった。

 

 

 

授乳も、ミルクを作って、哺乳瓶を洗うのが次第に面倒になって、母乳で黙らせることが増える。でも、母乳の量が少ないので、すぐに泣く。

 新生児は、飲んでいる最中に、吸うことで疲れて眠ってしまう。

新生児というのは、たとえそれが50㏄であっても、飲むのに三十分かかる生き物である。*1

その三十分を赤ちゃんは起きている体力がないので、眠ってしまうこともよくある。

 

だから、適切なミルクの量がわからなくなる。

 

 

寝たから、もういらないかな、と思って、寝かして、残ったミルクを捨てたころになって、泣くことも多々ある。そうすると、疲れた頭だと、「ミルクをあげたのに何で泣くのだろう?」と思う。

元気なら、「飲み足りなかったかな?」と思えるのだが、疲れていると、「飲ませたのに何で」となる。

 

 

さらに、母乳は目に見えないし、成長とともに、必要なミルクの量は変わる。

 

 

精神力、体力、どちらが低下しても、

「普通に考えればわかること」がわからなくなる。

 

それが怖いことだ。

本人も、なぜそうなったか、説明できない。

 

後知恵では何とでもいえるが、当事者にしかわからないことというおは、あるのだ。

 

今思えば、ミルクを多めに作って、残したら破棄したらよかったのだけれど、「入院中や、パートナーがいたときに適量だった量」を作り続けてしまった。

その結果、赤ちゃんはおなかがいっぱいにならず、ずっと泣く、ということが起きた。

これに気づかなかったのは、やはり、肉体的に疲れた結果、頭が回らなくなったためである。

 

 

哺乳瓶を洗うのがとにかくしんどい。手間としてはたいしたことじゃないのだけど、一時間ごとに洗うのがしんどい(適量を飲ませれば、三時間は眠ってくれる子ですが、量が足りてなかった)。

それで、自分の食欲もなくなってしまった。かろうじて、メイバランスを飲む。

食事が十分じゃないため、母乳の出が悪くなり、事態がさらに悪化した。

 

 

夜中にも、七時から十時まで泣き、やっと寝たかと思ったら、十二時に起き、泣いて、二時にまたぐずり、朝五時にまた泣いた。

 かわいいはずの赤ちゃんに対して、感情がわかなくなる。

ときどき、かわいいな、と思う。

(普段はずっとかわいい、大好きと思っている)

 

朝七時に、パートナーに電話をする。

パートナーは、ベビーシッターを探してくれた。

しかし、わたしは、ベビーシッターを頼むことを迷う。

お金の問題じゃない。

「頑張ればあと二日だから」と思ったのだ。

普段、わたしは、頼れるものは頼ろうと思っている。

しかし、あまりにも疲れすぎていて、人に頼むのがおっくうになったのだ。

説明をして、来てもらうことがすでにしんどい。

 

 

しかし、ふっと我に返った。

「頑張れば動ける」から、「頑張っても一切の身動きもできない」まで、とても近い距離にあること。そして、動けなくなってしまえば、人にものを頼むということが、本当にできなくなってしまう。

 

もし、ベビーシッターさんが来る前に、状況が好転して(そういう妄想をした、そんなことあるわけないのに)、ベビーシッターが無駄になったとしてもいいじゃないか。

新生児だからと断られたらどうしよう、とも思った。

しかし、電話をした。

 

頭が働かなかったので、朝七時だったが、電話をした。

そうしたら、なんと、人がいて、電話を受けてくれた。

当日では難しいが、明日は派遣できるということ。本来は申し込みが先だが、それは後回しにしてくれるということ。

事情によっては、行政から委託されている事業で、新生児の間、週二回、無料で二時間ずつベビーシッターを派遣する仕組みがあるので、そのことやいろいろな制度を教えてくれるということ。

 

 

赤ちゃんに母乳を吸わせながら、ひそひそ声で相談した。

本当は「光がその時見えた」とか、そういうことを言いたいし、思うんだろうけど、疲れすぎていて「あ、そうか。良かったなあ」「電話してよかった」「いろいろあるんだなあ」「人に相談すると、それだけで楽になるなあ」というようなことをうっすら思った。

 

 

さらに、幸いなことがあった。

すっかり忘れていたが、わたしの住んでいる地域では、「保健師の家庭訪問」というものがある。出生届を出した時に、パートナーが申し込んでくれていた。

それが、今日の朝十時の予約だった。

 

 

保健師さんが来てくれた時、本当にほっとした。

「やっと大人と話せる」

そう思った。

そう思ったら、赤ちゃんが、改めて本当に小さくて、弱い存在で、ということが思い出せた。

 (肉体的なしんどさよりも、大人と話せないことや、ちょっとしたことを相談したり、あいづちを打ってもらえないことがしんどかったようだ)

 

二時間かけて、聞き取り調査をしてもらった。

頼れる身内がないこと、社会との交流が乏しい家庭であること、両親二人とも精神的な障害があることから、地域の保健師さんへつなげてくれることになった。

今回だけじゃなく、わたしか、パートナーが倒れたり、赤ちゃんが病気になったら、詰んでしまうので、余裕のある時に、対処する方法を考えるべき、という話もしてもらった。一応、パートナーと、頼れるものは使おう、とは話していたけれど、保健師さんとその話ができて、本当にほっとした。

 

そのほかにも、赤ちゃんの状態をチェックしてくれた。

 

退院時と今の体重を比べて、体重の増加量が少ないので、ミルクが少ないということを言ってもらえた。

母乳の回数を増やしてもいいし、粉ミルクの量を増やしてもいい、ということで、今まで上げていた量より、20㏄増やしてみる、という話になった。

保健師さんがいる間に、与えてみたら、すやすや寝だした。

 

 

感動した。何をやってもぐずっていたのに。

保健師さんは

「疲れていたから寝たのかもしれませんね」と言ってくれた。

「わたしの精神状態が安定したせいも大きいと思います」といったら、

「赤ちゃんはそういうことに敏感に反応しますから、そうかもしれませんね」と言ってくれた。

 

 

そして、保健師さんが帰った後、わたしは、ずいぶん楽な気持ちになった。

空いた時間に、サラダを作ったり、お米を炊いたり、梨をむいて食べたりと、自分のためのことをできた。ストレッチもできた。

赤ちゃんが、また、今、泣き出したけれど、今朝よりずっと気分は明るい。

 

 

密室育児は本当にだめだ。

ちょっと考えればわかることでも、思考力が落ちて、わからなくなり、どんどん事態が悪化する。

 

事態が悪化する前に、助けが勝手にやってくる、という社会の仕組みが大切なんだと思った。

当事者は、事態が悪化してからじゃないと、助けを求めようと思いつかないし、悪化してからでは、助けを求めるという発想が消えてしまうからだ。

 

 

今回は、社会の仕組みに助けられた。ありがとう社会。

それにしても、保健師さんが、どうも、非正規雇用だったらしい。

福祉職の人は、正規で雇ってほしい、みんなが利用するんだし、わたしはそのことで税金が上がってもよいから。助ける立場の人が、経済的に不安定なのは、良くないと思う。

 

 

 

 

*1:混合だと、母乳をあげるのに20分かけて、それから粉ミルクを30分かけて飲ませる。なお、洗浄、消毒や調乳にまた別の時間がかかる。一回の授乳は一時間かかることも。それを一時間から三時間おきにするのだ。その合間におむつ替え、だっこなど